一酸化窒素(NO)は、血管を弛緩させて血流を改善する重要な生体内シグナル伝達物質ですが、その作用は一時的であるため、光を用いてNO濃度を時空間的に精密に制御できる放出剤の開発が強く望まれています。哺乳類において血流の低下は循環器疾患や臓器不全を招く恐れがあり、血管を弛緩させ血流を改善する薬剤は、脳卒中や様々な心血管疾患の治療において有望な候補となります。
当研究室ではこれまでに、光誘起電子移動(PeT)の原理を応用し、可視光でNOを放出するNO-Rosa5やNORD-1を開発してきました。

研究の過程で、これらの化合物の水酸基をメチル化した誘導体であるNO-Rosa6およびNORD-2は、光照射によってNOではなくニトロソニウムイオン(NO+)を放出することが見出されました。一方で、生体内に広く存在する還元剤であるアスコルビン酸ナトリウムを共存させて検討を行ったところ、これらのNO+放出剤は、従来のNO放出剤であるNO-Rosa5やNORD-1よりもはるかに迅速かつ効率的にNOを放出することが分かりました。
ラット大動脈切片を用いた試験では、 NO-Rosa6はNO-Rosa5よりも短時間で血管弛緩を誘導しました。また、外部からアスコルビン酸を添加しなくても強力な血管拡張が認められましたが、これは血管細胞内に存在する内因性のアスコルビン酸が作用した結果と考えられます。この作用はsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)阻害剤によって抑制されたことから、NOが正常なシグナル伝達を介して機能していることが確認されました。本研究で得られた知見は、将来的に生体内での血流を自在に制御する新たな治療薬の開発に大きく貢献することが期待されます。
(2022年度修士卒 吉川さんによる研究)
